顎変形症は、手術で顎のラインを整えられる!

顎変形症は、手術で顎のラインを整えられる!

顎の大きさや、形、位置に異常があることで上下の顎の関係がずれている状態の顎変形症は、日常的にも様々な支障をきたします。
大人になるにつれて治療が難しくなると言われていますが、現在では矯正治療に顎矯正手術を組み合わせることで、治療することが可能になっています。

顎変形症とは?

上顎や下顎の骨が前に伸び過ぎていたり、逆に顎が小さいなどで上下の歯の噛み合わせが大きくずれてしまっていたり、顔が非対称で歪んでいるような症状を「顎変形症(がくへんけいしょう)」と言います。
顎変形症を一般的な言葉で表現すると、 「受け口」「出っ歯」「あごの歪み」「開咬(前歯が咬みきれず開いている)」などがあり、多くの人が聞いたことのある馴染みのある症状です。

顎変形症には、先天性顎変形症、成長発育に伴って変形してくる顎発育異常、腫瘍や事故などによる外傷後により生ずる顎顔面変形の3つがあります。この中でも、成長発育に伴う顎発育異常が一番割合が多いです。

−主な症状−
*あごが大きく前に出ている
*あごが大きく引っ込んでいる
*あごが左右にずれている
*上下のあごの大きさが不釣り合い
*噛み合わせが悪い
*顔が大きく歪んでいる
*下あごが小さい
*口がきれいに閉じない
*発音しづらさがある

顎変形症になると、噛み合わせが悪くなってうまく食べ物が噛めなかったり、発音が悪く言葉を発してもわかりづらかったり、見た目にもコンプレックスを抱いたりなど、機能面と審美面に影響を与えます。
また、変形によるコンプレックスから、精神心理的障害を起こすこともあります。

まだ成長期にいる小さな子供のうちは、歯の矯正であご骨の成長をコントロールして対処できることもあります。
しかし、骨の成長が止まってしまった成人の場合は矯正装置だけでは満足できる治療結果が得られないことが多く、時間的、社会的な制約だけでなく医学的な理由からもなかなか治療することは難しくなってきます。

症状が軽ければ矯正治療だけで咬み合わせを改善できますが、上顎・下顎が大きくずれてしまっている方は、矯正治療だけで歯並びや顔の歪み、変形はきれいに治しづらいです。そのような場合は、顎矯正手術が必要となります。

顎矯正手術とは?

顎矯正手術はあごの骨を移動させる手術です。手術的に骨折を起こし、あごの骨を伸ばしたり回転や後退をさせて理想的な形へと治療をしていきます。

原則として骨の成長が終了した年齢以降の人が対象になるので、おおよそ男性17歳、女性16歳からで、治療を受ける多くの方は20~40歳代ですが、25歳ぐらいまでが最適とされています。それ以降の50~60歳の方でも手術は可能です。

顎変形症の治療は、手術前に矯正治療を行った後に(約1年~1年6か月)、顎矯正手術をし、最後に術後矯正治療(約1年~1年6か月)をする流れが一般的です。治療を終えるまでには約3年程度の時間を要します。しかし、ごく稀に手術前・後の矯正の必要がない症例もあるので、その場合は治療期間は短くなります。

うまく噛めない、発音ができないなどの機能的問題がある場合には、保険が適用される外科矯正治療が可能です。顎矯正手術は外科的矯正治療に値します。
通常の矯正治療では難しい症例でも大きな治療効果が期待できる上に、比較的安価で治療を行えます。

手術の種類

顎矯正手術は上あご・下あごのそれぞれに適した方法があります。種類は全部で5つあり、それぞれの術式をご紹介します。


<上あごに対する手術>
Le Fort1(ルフォー)型骨切り術
上顎骨の骨切りは殆どが Le Fort 1骨切りです。上顎の劣成長や位置的な異常を伴う場合、笑った時に上顎の歯茎が広く見えてしまうガミーフェイスや、出っ歯、顔面非対称、上顎部陥凹、強度の下顎前突等の種々な症状に適応されます。

上顎骨を鼻腔の下でほぼ水平に骨切りし、分離させることで、上顎骨を前後左右、回転と、どの方向にも動かすことができます。分離された上顎骨後方に太い血管があるので、損傷しないように注意が必要です。
上顎と歯と一塊にして移動させ、予定した位置に動かしたら、金属のプレートや吸収性のプレートを用いて固定させます。Le Fort 1 骨切り術では必ず鼻翼幅が広がるので、最後に鼻翼幅を縮小する処置を行います。


<下あごに対する手術>
下顎枝矢状分割術(かがくししじょうぶんかつじゅつ)
下顎枝矢状分割術は、顎矯正手術で最も幅広く行われる手術です。反対咬合・受け口に有効的で、日本では約50年の歴史のある方法であり、世界中多くの施設で行なわれています。

下顎枝は、下顎骨のえらの部分から後方の骨を言います。
この部分の骨を、両側とも薄く二枚おろしの様にスライスすることで下顎を後ろに下げたり、前に出したりします。大掛かりな作業にきこえますが、意外にも、神経や血管を損傷せず、また、手術後の骨のつながりを万全にする方法として非常に有効な術式です。


下顎枝垂直骨切術(かがくしすいちょくこつきりじゅつ)
下あごの手術の中では、下顎枝矢状分割術の次に頻度の高い手術です。
下顎枝矢状分割術と比較すると、術後に顎関節への影響が少なく、顎関節症や、顔面非対称で左右の下顎の移動量が大きく異なる場合には特に優れた方法です。しかし、下顎を前方移動させたい場合には用いることができません。

左右の親知らずのあたりの下あご骨を垂直に切り、歯のついている骨のみを正しい噛み合わせ位置に移動させます。この手術では骨同士を固定させないので、プレート固定は行いません。


オトガイ形成術
オトガイと呼ばれる下顎骨の正中下端部分(下顎のあご先)を修正します。
この手術は噛み合わせには関係しませんが、上記の手術法であごの移動を行った場合に、顔面骨格のバランスを整えるために併用する場合があります。そのため、この手術を単独で行った場合は保険適応外となります。
広くオトガイを出したり、引っ込めたり、短くしたり、長くすることが可能です。また、この部分は良好な側貌を得るのに大変重要な骨であり、オトガイ部を動かすことで側貌は大きく変化します。

手術は口の中から行います。左右の骨面を広く出しすぎると太い神経に影響が出てしまうので注意が必要です。
一般的には正面からみて逆Vの形で骨切りし、そこで分離した骨を予定位置まで動かし、固定します。最後の仕上げには、骨切り周辺の段差を修正します。


下顎骨分節骨切り術
あまり使われない手術ですが、受け口でオトガイが前に出ていない場合や、出っ歯で上下で分節骨切り術が適応と判断された場合、また、上顎の場合と同じく矯正歯科治療中で、下顎前歯を早く後方に動かしたい時にも適応できます。

口の中からの骨切りは単純です。下あご4番目の歯を抜去し、その部分まで下あごを後方にずらし、金属プレート等で固定します。反対咬合が改善されます。

手術の流れ

①術前矯正治療
初めに頭部のエックス線規格写真、歯型の模型、顔貌の写真などを用いて診断を行い、治療へと移ります。手術で上下の顎を移動させたときに、正常な噛み合わせが得られるように歯並びを整えていきます。

②顎矯正手術
前述にあるような方法で手術を行います。症状によって方法は変わりますが、顎の骨を上下、前後左右に移動したり、歯を含む骨の一部だけを切って動かし、噛み合わせと外見を正しく整えていきます。
基本的にはすべての操作を口腔内で行うので、傷口が外から見えることはありません。
主に体に害作用がない金属のネジとプレートを使います。大々的な手術になるので全身麻酔下で行われます。術後のリハビリをし、柔らかい食事が自宅でも食べられる状態となったら退院できます。入院は約1〜2週間程度ですが、必要に応じて延長されることがあります。術後1ヶ月程度で、術後矯正治療に入ります。

③術後矯正治療
手術で得られた噛み合わせを微調整して、理想的な噛み合わせに仕上げていきます。術後1年間は、手術で動かした顎が元の位置に戻ろうとする力が非常に強くかかる期間です。そのため、顎矯正手術で担当した口腔外科医も一緒に経過観察をしていきます。

④保定期間
歯列矯正のワイヤーが取れたら、歯並びの安定化のために、日中や夜間のみ保定装置を着用し、後戻りを防止します。

手術のリスク・デメリット

*骨には太い血管や神経が通っているので、切る位置や方向、量には様々な制約や限界があります。したがって、顎の形を自由自在には変えられないので、必ずしも自分が望む形になるとは限りません。また、保定を確実に行わなかった場合に、後戻りしてしまうことがあります。

*多量の出血を起こすことが稀にあるので、上あご・下あご両方を手術する場合には事前に自己血を貯めておくことがあります。

*口唇、頬、歯肉の痺れが半年〜1年程度続くことがあり、稀に若干残るケースもあります。

*全身麻酔を行うため、軽度なものから重篤な合併症があります。日本麻酔科学会によれば、全身麻酔を10万回行えば1例程度の確率で命を落とすという事もあり、かなり低い確率ではあるものの死なない可能性はゼロではないと言うことを覚えておきましょう。

*顎矯正手術は骨そのものを移動させたり、切ったりします。
骨には”三叉神経”という上あご・下あご・唇周囲の知覚(触った・熱い・冷たい等)を伝える神経が通っているので、手術後に口唇や口蓋の知覚の異常(麻痺・鈍麻・神経障害性疼痛)が起こる可能性があります。
実際に手術後に1年以上が経過しても、知覚の異常を訴えられる方が20人に1人程度います。こちらも高い頻度ではないですが、手術を受ける際は自分にも起こりうるリスクであるということを認識しておきましょう。

顎矯正手術とその他の治療の違い

◎矯正歯科
通常の矯正治療は土台となるあごを動かせないので、歯列を整えることはできても顔の中心やあごが歪んでいるなどの根本的な解決はできません。
症状が軽度であれば矯正歯科でも改善されますが、顎変形症によって口腔の機能に大きな問題があると判断された場合は通常の矯正治療だけでは治らないので、矯正歯科を併用したり、影響を及ぼしているあごの骨に直接アプローチする手術が必要となります。
もし、上あご・下あごそれぞれのズレが大きいのにも関わらず、矯正歯科治療で無理に歯だけの咬み合わせを改善させようとすると、かえって歯やあごの関節に過剰な負担をかけるということが起こりえます。歯は骨に刺さっているものなので、真っ直ぐに刺さっていることが理想的です。あごに合わせて無理に歯の向きを変えてしまうと、無理な傾斜は長持ちしない歯になってしまいます。


◎美容外科
容姿を自分の理想へと近づけることに特化した美容外科では、目や鼻といった顔の細かい一つ一つのパーツやシミ、しわ、ボディラインなどを修正することに長けています。最近では、プチ整形など気軽に施術が受けられるようになり、より身近な存在となってきましたが、顎変形症のように骨格に根本的な問題がある場合は、美容外科では治療が難しいです。
機能的な改善の伴わない美容外科に健康保険が適用されることもないので、顎矯正治療に美容外科での治療はおすすめしません。
あごを正しい位置に治した上で、その他の顔のパーツが気になった場合は美容外科を利用すると、より理想的な顔のバランスが取れるでしょう。


◎整体・ボディメンテナンス
整体などで骨格矯正というものがありますが、同じ”骨へのアプローチ”ではあるものの、骨格矯正は首から上の骨の縫合部にアプローチするものであるため、骨そのものの形を変えることはできません。そのため、整体での顎矯正の改善は見込まれません。

まとめ

歯の噛み合わせが悪かったり、上手く発音できない、輪郭にコンプレックスを抱いている方で歯を矯正させても満足するような改善がなかった場合、「顎変形症」である可能性が高いです。
顎変形症は骨の移動を伴うので、せっかく歯列矯正をしても、手術後に再度矯正を必要とされることがあります。そうなると出費が必要以上に増えてしまいます。
また、矯正期間を含めると治療には大変長い期間を要するので、最初の段階で治療法をよく見極めることが大事です。

手術は骨を切り、分離させたりと大掛かりなものであるので、手術に対する不安やリスクも高くなります。しかし、顎変形症による日常への支障や悩みは大きく、手術によって理想的ななあごになった時の満足度は高いでしょう。

成長期の段階であれば、歯の矯正だけで対処できることがあるので、心配になり始めたら早めの段階でまずは病院に相談することをおすすめします。

気軽に受けられる治療ではない上に、治療を開始したら完全に終了するまでは長い時間がかかってしまいますが、機能面・審美面ともに大きく改善されます。
顎変形症で悩まれている方は、是非一度手術を検討してみてはいかがでしょうか?

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